遊ルート

 


 夢ルート

 

シーン 破


 箱根が再び誰も居なくなった舞台上に現れる。

「アンケートにご回答頂き有難うございました」

「それでは」

「あ、いけない。『遊』びの予定が……はは、すみません。じゃあ僕はこの辺で」


 箱根がパチンと指を鳴らす。

 

 

 


シーン5


 和島から呼び出された圭。畏まった様相に花束を持った和島に戸惑う。話を聞くと、どうやら「背中を押して欲しい」そう。

 和島はどうやらずっと小野田に対し恋愛感情を抱いていたらしく、今回の公演を最後に、劇団を去る小野田に想いを伝えておきたいとのこと。

 圭は和島の話を一方的に切る。

「俺、記憶を失ってるみたいなんだ」

「……え?」

「何かを忘れてる、絶対、忘れたくなかった筈なのに」

「何言ってんだよ」

「俺好きだった、その、その男が好きで」

「思い出さなくていいって」

 和島の態度に何か引っ掛かる圭。

「何でそんなに、俺が思い出すのが嫌なの」

「……」

「知ってんの、なあ、和島」

「俺は今のお前が好きだよ!だから、だから頼む、お願いだよ」

 和島が圭の手を握る。

「全部忘れてくれ。今のままでいい、いいんだよ」

「そんな」

「みんな、みんなお前のことが大事なんだ。だから忘れよう、お願いだ、やっと、お前が元に戻ったのに」

 圭は和島の言っていることが何一つ理解できない。

 恐ろしくなった圭はこれからある劇団での活動に参加しないことを決めた。

 

 


シーン6


 意味がわからない。

 一人で頭を抱える圭、フラフラと歩きながら何かを思い出そうとしてる。

 踏切の音。

「……踏切」


「なあ、圭」


 圭の隣に謎の男が立っている。

「一緒に飛び込んでみようか」


「……」

「きっと楽しいよ。俺と、圭が一瞬で散るんだ」

 謎の男が続ける。

「全部全部無くなるんだ」

「何もかも」

「全部飛び散って、人様に迷惑かけまくって」

「それはそれで、良いと思わない?」

「圭」

 震えた声。

「俺、一人はいやだ」


 電車が過ぎ去る音。

 それと同時に、無言を貫いていた圭が謎の男の腕を掴み、そして抱き締める。

「俺、お前と出会って、もう少しだけ生きてもいいかなって思った」

 そして圭はその場で崩れ落ちる。

「お前となら死ねる」

 謎の男は圭を悲しそうな瞳で見詰める。

「何言ってんだよ、圭」

「……」

「俺らはただの遊びだろ」

 ノイズが走る、崩れたまま痛みに喘ぐ圭。


 謎の男が呟く。

「やめてくれよ」

「本当に、期待するだろ」

 苦しむ圭の声が響き続ける。

 暫しの間暗転。


 物音。

 圭の叫び声は色を変え、そして突然事切れた。

 舞台が明るくなる。

 二人は裸でベッドの上で折り重なっている。

「この、この、変態、異常者、ぜったい、ぜったい通報する」

 初めて出会った日、圭は謎の男に襲われた。

「何だってしてくれ。どうせ死ぬんだ」

「は」


 謎の男は余命宣告を受けた青年、「篠山昌吾」だった。

 自身が余命幾ばくもない身と知り自棄になった彼は「最期に誰でもいいから愛したかった」という。無理矢理襲われた側の圭は勿論鼻で笑う、何が愛だと。

「これは愛じゃないのか」

 昌吾の純粋な問いかけに圭は返す言葉を無くした。

「誰でもよかったんだろ、じゃあ何で俺だったんだろうな」

「気になった。沢山の人の中で一番目立ってた」

「クソ、あんな飲むんじゃなかった……」

 二人は襲った側と襲われた側とは思えない程、ベッドの上で他愛のない会話をした。世間話なんかもした。

「あのさ」

「何」

「また遊んでくれる」

 圭はすぐに頷いた。

 

 


シーン7


 圭は昌吾を思い出した。

 しかし、まだ忘れているものがある。

 欠けている。

 亮介の家に行く。二人に昌吾という男の話をした。

「……もしかして、篠山昌吾くん、なのか?」

 岩田が聞く、頷くと二人が顔を見合わせ目を伏せる。

「知ってるんですか」

「ああ、俺の仕事場に……患者さんに居たんだ、青い薔薇を大事にしてた男の子が」

「岩田さんは昌吾とどんな関係だったんですか」

「俺はただ、一看護師だよ。ただ凄い、脱走癖というか……外出届も出さないでよくふらっと居なくなるから病院でも有名だったんだ」

 岩田は篠山昌吾が若くして重篤な病を患っていたこと、元から金も無く、身寄りもなく、治療費が払えなかったこと。

 そんな、孤独な彼が、人から貰ったものならしかった。

「青い薔薇の花言葉は、夢叶う、それから奇跡なんだって」


 圭の頭が割れるように痛み出す。ノイズ。踏切の音。痛い、痛くて痛くて辛い。岩田と亮介が倒れた圭に駆け寄るところで暗転。

 

 


シーン8


「俺、実はずっと死のうと思ってたんだ」

「何やっても上手く行かないし」

「何で生きてるか、分かんなくて、だから死のうと思ってた」

暗転の中、圭の声だけが響く。


 明るくなる。青い薔薇を抱えた圭が中央に立っている。

「……それは」

 ベッドの上には点滴に繋がれた昌吾の姿が。

「青い薔薇の花言葉は、夢叶う、それから奇跡なんだ」

「……」

「俺、昌吾と二人で生きたい」

「でも俺」

「二人で生きられないなら、俺も行くから」

 圭は青い薔薇を昌吾に手渡し、見詰める。

 昌吾の髪を撫で、それからそっと唇を重ねた。

 圭が呟く。

「迎えに行くから、待っていて」


 奇跡なんて起こらないと、圭も分かっていた。

 あの時、彼の手を引いて踏切を渡ってしまえばよかった。

 そうすれば

 一人にしなくたって

暗転、

 心電図のアラームが響く、

明転、圭の代わりに看護服を着た岩田と冷水が居る。布団を乱し、身体を震えさせる昌吾。岩田と冷水が昌吾の身体を押さえながら、

「大丈夫ですか、篠山さん、篠山さん」

「生きたい!」

「落ち着いて下さい」

「まだ、まだ生きなきゃ、俺が、俺が生きなきゃ」

 悲痛な叫びが何度も響く。

「嫌だ、死にたくない、死にたくない」

「助けて」

「圭」

「嫌だ」

「もう一度だけ、君と」


 暗転。

 僅かな沈黙の後、ツーと、心電図の音が鳴り響く。

 

「迎えに行くから」


 踏切の音が近付く。

 電車が近付いて来る音、途中で切れる

 

 

 

シーン9


 明転、

 中央、赤い薔薇の花束を胸に抱いている昌吾。

「昌吾」

「……」

「ごめん、待った?」

「いいや、全然」

 振り返る。圭は胸に青い薔薇の花束を抱いている。

「……はは、ははは」

「はははははっ」

 二人が笑い合う。笑い合いながら、抱き締め、何度も何度も愛を確かめ合う。そして花束と共に中央奥にあるベッドに二人でなだれ込む。

「ただの遊びって言ったのに」

「遊びに本気になる男は嫌い?」

「あはは、はぁ、楽しい」

 

 二人はベッドに横たわったまま、それぞれの物語は普通に動き出す。

 劇団員達は無事公演を終わらせたらしく、楽しげに話している。全員酔っ払っているらしく、千鳥足のまま小野田が「次の店行こう!」と全員を押して行く。小野田の背中を見詰めている和島。そしてどこかを少し見詰めた後、先に行った小野田に急かされるまま歩き出す。


 立ち歩きながらコーヒーを飲んでいる日野は箱根と立ち話をしている。それでも眠いのかよろける日野を箱根が支えていると、冷水が走り込んで来る。緊急事態かと思いきや、植木鉢を覗きながら「芽が出ましたー!」と嬉しそうに報告してくる。箱根がズッコケると日野も倒れる。冷水は楽しそうに箱根と共にガチで寝始めてしまった日野を引き摺っていく。


 亮介と岩田は喪服を着ている。葬式帰りのようだ。


「俺も、行ってよかったの」

「俺は呼びたかったから。生きてる時のこと知ってる訳だし」

「そっか」


 目を伏せる亮介。岩田の手を握り締める。

「一人は嫌だ」

「俺も嫌」

「でも俺は、待つのも好きだからね」

「うん」

「……」

「今頃、二人で何やってるかな」

 舞台奥、二人が眠りにつくベッドに照明が当たる。

「遊んで、遊んで、遊び疲れて、二人できっと幸せそうに寝てるよ」

 そのまま溶暗。

 


終演。

 

 

 

 

はじめから

あいまいみぃ主演公演「夢遊病」 共通パート - iharageinouの日記